佐々木のコレクション
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部屋の中央に正座した佐々木(仮名)。
目の前には、ガラスケースにずらりと並んだ4百体を超えるレースクイーンのフィギュアとアクリルスタンド。
スポットライトを浴びるように配置され、まるでラスベガスのショーガール隊。
しかし、今の佐々木にとっては違う。
それは輝きではなく──散財の亡霊だった。
「……俺は、なぜこんな“ミニチュアRQ軍団”を築き上げてしまったのか」
過去の自分が脳内で次々と再生される。
「限定100体だから絶対買わなきゃ!」
「通販サイトで最後の1個、これは運命!」
「このアクスタは衣装がマイナーチェンジ版だから別物!」
「RA大賞の投票のお返しにもらった(何体あるかわからない)限定バージョン」
全部、冷静に思い返すとただの販促コピーに踊らされただけである。
コレクションケースの上段には「2018富士RQ夏バージョン」、
中段には「2020鈴鹿秋バージョン」、
そして下段には「2022幕張イベント限定レアカラー版」。
今思い返すと何がどうちがうのか。
アクスタはまだわかる。でもフィギュアはどれが誰だかさえ思い出せない。
佐々木は頭を抱える。
ヲタク仲間から煽てられた。
「いや~佐々木さんにはホント敵わないっすよ」
「佐々木さんはマジ日本一のコレクターです。尊敬です(敬礼!)」
「プレミアがついて何倍もの価格になるアイテムもあるでしょう。大金持ちですね」
「俺も佐々木さんみたいに給料全額趣味に使えたらな~」
と言われて調子にのった自分の馬鹿さ加減に呆れてきた。
無言でスマホの電卓アプリを叩く。一体だいたいいくら、掛ける、460体までは数えた。
「これ全部合わせたら……軽自動車が余裕で買えてたな。免許持ってないけど」
──メルカリで....売れるわけないか。
と、いつもの癖で手にしたフィギュアを持ち上げ、下から覗いてみる。
その姿がコレクションケースのガラスに映った。
俺は一体何をやっているのか、これから何をやっていくのか。
佐々木の思考回路は機能を停止した。
自らの意思で思考することを放棄した。
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