砂浜の火花
銀髪を麦わら帽子の下に揺らし、彼女は不思議そうに線香花火を眺めた。潮風にさらさらと髪が踊る。ここは人が住む場所の、ほんの少し横にずれた隙間にある海辺。本来なら誰もいないはずの場所だ。
「消えちゃった。またつけて」
差し出された線香花火の先に、私は火を灯す。パチパチと弾ける音が、夜の静寂に吸い込まれた。
「あ、また消える。この火花、まるであちら側の住人みたいだね。すぐ向こうへ行っちゃう」
彼女はいたずらっぽく笑う。その赤い瞳は、この場所の住人特有の、少し毒気を孕んだ光を宿していた。
「あっち側のルール、厳しいからね。こうやって人間界にちょくちょく遊びに来ないと、息が詰まっちゃうの」
彼女は立ち上がり、膝についた砂をパタパタと払った。
「さて、そろそろ帰らないと。あっちの長老に見つかったら、お説教で夜が明けるわ」
「また来るの?」
「もちろん。火花が消えるたびに、ね。次は人間界の美味しいお菓子、持ってきてよね。あっちのものは甘さが足りないの」
彼女は最後にもう一度線香花火を大きく振ると、空気が波紋のように揺れた。次の瞬間、彼女の姿は、まるで最初からそこになかったかのように霧散した。
残されたのは、湿った砂に落ちた、小さな火種の跡だけだった。
呪文
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