大宰府で♪
にぃにの運転は、ほんとに丁寧。車内は心地よい揺れで、対向車もまったくおらん。
「いい天気やね〜♪ 冬の精霊も、今日は穏やかやし♪」
「そうだな。もしかすると、今日あたり初雪が降るかもしれないな」
「えっ!? 雪が!? 降ったらロマンチックやね〜♡」
雪かぁ〜……もしデート中に降ってきたら……
いかん! 顔がにやけてまう♡ ん〜、でも……降ったらいいなぁ〜♪
「にぃにとミントの故郷って、雪が多かったと?」
「ん? ああ、そうだな。けっこう積もってたよ。『カリャッハ』――冬の女王が雪を降らせて、大地と海を凍らせるって教わったな」
「へぇ〜♪ 今度、『超古代図書館』の捜索が終わって落ち着いたら、行ってみたいなぁ♪」
「そうだな……僕も、そろそろ前を向いて歩かなきゃな……」
にぃにの声が、少しだけ切なげで……でも、ちゃんと決意がこもっとった。
ふと訪れた静寂。でも、それは気まずさなんかじゃなくて――言葉がなくても、ちゃんとお互いを感じ合える、あったかい沈黙やった。
窓の外をふわふわ漂う、小さな冬の精霊たちが、なんとなくウチらを見守ってくれとる気がした。蒼穹の冬空はどこまでも澄みきってて、ウチの瞳に、まっすぐ映り込んどった。
* * * *
「いらっしゃい♪ ラーヴィ、葵♪」
大宰府に着くと、この土地を守る戦巫女であり、親友のまほが駆け寄ってきてくれた。ウチたちはしっかり握手して、そんで、ぎゅっとハグ。お互いの存在を、ちゃんと確かめ合った。
「そういえば――今日は2人きりで誕生日デートでしたよねぇ?」
アメジスト色の瞳を細めて、まほが優しく問いかけてくる。
「うん♪ 今日でウチも16歳♪ みんなに追いついたっちゃ☆」
「そういえば、葵が一番最後だったのよね。お誕生日、おめでとう♪」
そう、5人の中でウチがいちばん誕生日が遅いんよね。
まほが4月、椿咲が6月、ミントが7月、月美お姉ちゃんが9月――そして、ウチが11月。
「つまり、ウチが一番若かったってことやね……にひ☆」
「んもう、一年間の年の差なんて誤差でしょ? それよりも――ラーヴィ。目を貸して」
まほがにぃにのそばに歩み寄って、そっと手を取った。
「視覚共有……?」
まほは生まれつき目が見えんけん、ウチたちの姿も見えとらん。
でも、にぃにとマナを共有して、呪術の応用を使えば、視界を一時的に共有できるらしい。
「せっかくですし、2人の今の姿を、ちゃんと視ておきたいの♪」
「……そういうことなら、幻刃――どうぞ」
2人のマナがふわりと重なっていくのをウチも感じた。
そして――
「……これが、“尊い”ってやつなのかしら? 葵――めっちゃ、かわいかぁ〜♡」
えっ……!? まほの目から、ぽろりと涙が……え、えっ!? このコーデ、そんなに褒めてくれると!? 最後方言出てるくらい、感動してる?
「だろ? 幻刃。今日の葵、ほんとに綺麗なんだ。君も泣くほど感動したのかい?」
「……こんなに綺麗な姿見たことなかったもん……ふふ♪ でも妬けますねぇ。そして、貴方様のお姿も……はぁ♡ とっても、尊いです」
まほは、にぃにの姿もすかさずチェックしとった。
にぃにはまほが見やすいように姿見の前に立って、全身を映して見せてくれてる。
「ありがとう、ラーヴィ。2人のお姿で、ご飯50杯はイケます!」
視界共有を解いたあと、まほがサムズアップしてくれた。
あはは、見た感動をオカズにするなんて、まほらしいなぁ♪
でも……ほんとに嬉しい♪ まほの言葉って、いつも真っ直ぐで、忖度とか一切ないから、心に響くんよね。
そのあと、まほと別れてから、教えてくれたおすすめの『梅が枝餅』屋さんに向かおうとしたとき――
「葵、よければ花屋にも寄ろう。綾華さん、青いバラが好きだったよな?」
「うん……? にぃにに、覚えてくれとったん?」
にぃにが言っているのは、ウチのお母さんの名前。ウチが5歳の頃にお父さんと一緒に他界している。
ウチたちはその頃、地下世界で暮らしてたから、”生花”を見たことがなかった。
お母さんが、「青いバラを一度見てみたいの♪」って言ってたのを思い出せたから、去年のお墓参りに行くときに、お供えで買いに行ったことがある。
それっきりやったのに……にぃに、覚えてくれとったんや。
「ああ、それに青バラだけじゃない。今の季節の花も買おう。いろんな花を、綾華さんと剣さんに届けよう」
にぃにが、優しく微笑みながら言ってくれた。剣お父さんのことも、気にかけてくれて、ウチは――
「あ、ありがとう……♪」
つい、目頭が熱くなった。ありがとう、にぃに。ほんとに、ありがとう。
呪文
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