新連載 賭博覇王伝零 再起編
毎週更新予定です。
時系列は原作8巻以降のお話。
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第1話「地の底」
耳鳴りがする。
金属が軋む音、崩れるガラスの破片。肺の奥にまで砂埃が入り込み、喉が焼ける。
──死んだと思った。
だが、生きている。
「……俺は……」
宇海零は、ひしゃげたリムジンの中で目を覚ました。右腕が動かない。額からは血が流れ、片目がかすんでいる。体中が痛む。だが、それよりもまず、生きていたことに驚いた。
外は夕焼けの色に染まっていた。崖の上は遥か遠く、見上げるたびにその高さが現実離れしていたことを思い知る。あのリムジンは確かに落ちた。崖の底へ、仲間ごと――。
「……ヒロシ……ユウキ……!」
痛みを堪えて、車内を見回す。運転席は潰れていた。助手席には誰もいない。後部座席――そこには、血まみれのユウキがいた。胸の動きはない。
「……嘘、だろ……?」
震える手で脈を確かめようとしたが、冷たかった。
その時、近くの瓦礫の山から、わずかなうめき声が聞こえた。
「……ぅぅ……」
「誰だ……!? ヒロシか……!?」
声の方へ這うようにして近づくと、瓦礫の下敷きになっていたのは――末崎さくらだった。
「さくら……っ! しっかりしろ!」
「……ゼロ……? あなた……生きて……たの……?」
呼吸は浅いが、意識はある。左足が折れたリムジンの破片で切断寸前になっていた。出血は酷い。
「大丈夫だ……! 俺が助ける……!」
零はすぐさま周囲の破片をかき集め、止血と応急処置に取りかかる。死んでなどいられない。生きている。それが今、この地獄で唯一の救いだった。
──何が起きたのか?
記憶を呼び起こす。
リムジンでの最終決戦、ドロップリムジン。1台が落とされるとされていたゲームは、突如として“全車両転落”という想定外の結末を迎えた。在全無量の意思か、あるいは――。
「……まだ、終わってないのか……?」
零は立ち上がる。さくらを背負う。足元はふらついているが、崖の上を目指して歩き出した。
そのときだった。
ガラガラと瓦礫の向こうから、人影が現れた。
「生き残っていたか。さすがだな、宇海零……」
声の主は、黒のスーツに身を包んだ見知らぬ男。目元はサングラスで覆われ、感情を感じさせない。
「誰だ……あんた……」
「俺は、在全無量の“後継者”だ。名乗るほどの者ではない……が、君を“迎えに来た”」
「……迎えに……?」
「このゲームは、まだ終わっていない。今度こそ本物の“決勝”だ。死人の中から這い上がった者だけが、参加資格を得る――」
その言葉のあと、後ろから現れた2人の護衛が、何かを運んでいた。担架に乗せられていたのは――
「……板倉……!?」
血まみれで、意識不明だが生きていた。
「君の仲間の生死も、ここから先の君の選択にかかっている」
「……ふざけるな……こんなこと、ゲームじゃねえ……!」
「君は、最初から“死のゲーム”に参加していた。今さらそれを否定しても遅い――さあ、選べ。君は戻るのか? それとも、続けるのか?」
その瞬間、零の脳裏に、かつて助けてきた人々の顔が浮かんだ。命の価値を信じていたあの日々が、また遠ざかっていく気がした。
「……この命を使って、人を救えるのなら……」
宇海零は、血まみれのさくらを背負ったまま、男の目をまっすぐに見返した。
「……俺は、続ける。絶対に、お前らの“決勝”をぶっ潰してやる……!」
冷たい笑みを浮かべ、男は頷いた。
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【続く】
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