麻袋博士
「時に、私たちの文明は、忘れてはならない“影”を抱えている。
今、あなたが目にしているのは、その影を凝縮したような空間だ。」
「この部屋に並ぶのは、発掘された古代の遺物、呪具、未知の機械部品……
現代の科学では説明のつかない“オーパーツ”ばかりである。
それらを前に、白衣の人物が静かに立つ──
だが、その素顔は麻袋の奥に閉ざされている。」
「彼は“麻袋博士”と呼ばれている。
正体不明、所属不明。
ただ一つだけ確かなのは、
彼が研究しているのは**古代文明の“失われた科学”**なのだということだ。」
博士が白濁した液体の入った瓶を持ち上げる。
液面からは、煙のような蒸気が上がる。
「博士の手にある液体──
それは“乳白の霊媒(メディウム)”と呼ばれ、
古代の工匠たちが機械と霊性を融合させる際に使ったと言われる、
失われた触媒物質である。」
「古代の科学は、ただ技術だけではなかった。
祈り、呪い、記憶、恐怖……
精神エネルギーまでもが、物質の一部として扱われていたのだ。」
部屋中の人形・鏡・鍵・巻物・胸像・壊れた球体が映り込む。
「オーパーツには、ある共通点がある。
それは“意味の空白”──
設計意図の消失だ。
麻袋博士はその空白を、霊的な古文書と物質解析を重ねて読み解こうとしている。」
「そして、博士が身につける“麻袋”の覆面。
これは単なる匿名化ではない。
博士自身が言うには、
古代技術の“思念干渉”から自我を守るための防護具だという。」
古びた魔術書に描かれた人体図と紋章が映る。
「古代文明では、科学者とはすなわち呪術師。
技術開発とは、神々との交信を意味した。
この部屋の遺物は、その名残である。」
「麻袋博士は語る──
“古代の科学は、呪術を棄てていなかった。
我々現代人こそ、科学から呪術を忘れてしまった民族だ” と。」
瓶の白い霧が博士の手を包む。
「そして今、博士が手にしているその液体には、
古代の機械文明が操っていたという“霊的回路”の痕跡が残っているとされる。
もし博士の解析が成功すれば──
現代文明が喪失した“心で動く機械”が復活する可能性がある。」
「科学か、呪術か。
文明か、禁忌か。
麻袋博士の研究は、その境界線を踏み越えつつある。」
「そして博士は今日も、誰にも知られない地下室で、
古代のロストテクノロジーを再起動させようとしている……。」
呪文
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