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「乾杯!」

 勝利の美酒は人を酔わせる。
 かつては不遇を囲っていた者が、思わぬ形での抜擢と栄達を伴うものであったのなら、それはより一層甘美なものだろう。

「乾杯! 乾杯!」

 手に手に祝杯を掲げて、勝利を言祝ぐ叫びが木霊する。

「何とか終わりましたな」
「ここしばらくは寝る暇もないほどでしたが、これでようやく我らも肩の荷を下ろせますな」

 フェンテスの技術者、科学者、兵器開発責任者達は口々に祝辞と喜びの声を交わし合う。
 窓の外や立体映像型ディスプレイでは幾つもの花火が夜空に大輪の華を咲かせている。耳を澄ませば遠くから花火の音も聞こえるかもしれないが、勝利の美酒に酔った彼らはそれらの雑音を聞き流す。

「これで我らも救国の英雄だ。これからは肩身の狭い思いはせずに済みますな」
「左様。二度と今回のようなことが繰り返されぬよう、国家の盤石な防衛のためには更なる力が必要です」
「全く、下らぬ娯楽などにかまけている暇などありません。すぐにでも次の新型兵器を開発するために、もっと多くの予算と資材を寄越してもらわねば」
「人道だの何だのと、綺麗事ばかりで現実の見えぬ物分かりの悪い連中には、速やかにご退場いただきましょう」

 酔いに任せて、彼らは熱弁を振るう。

「あのノーマとかいう連中は、実に興味深い。さらなる実験と研究を重ねたい」
「エルフだのドラゴンだのといった奴らもです。もっと多くの検体を解剖し、素体となるサンプルが欲しい」
「それを言うなら獣人や半妖も、ですな。なに、人類の進歩するために必要な犠牲となれるのです。我らのおかげで未来の礎となれることを、むしろ感謝してもらわねば」

 知的好奇心と探求心のままに、彼らは心から笑い合う。彼らは実に幸運だった。自分達が幸福であると、これからも輝かしい未来が待っていると信じて疑わず、何も知らずにそのまま死ねたのだから。



「――…研究データの消去完了。バックアップも含め、電脳と記憶媒体ごと物理的に破壊した」
「ご苦労。建物の爆破処理まで、あと7分2秒。速やかに脱出せよ」
「了解」

 サーバに接続したケーブルを引き抜きながら、暗殺と破壊工作を主任務とする隠密アンドロイドは照明の落ちたオフィスを見回す。
 倒れ伏した死体が幾つか。彼らが手にしていた酒杯は床に落ちて割れ砕け、中身の美酒は零れて染みになっている。死の瞬間まで何も気づかなかったと見えて、その死に顔は笑顔のまま硬直している。消音装置付きの銃から放たれた炸裂弾は彼らの脳幹を破壊し、電脳の記憶領域を無意味な金属片へと変えた。彼らの知性も、時間をかけて積み上げた研究成果も、何もかも無へと帰した。

「…とはいえ、これも時間稼ぎ以上のものではないのだけれど」

 彼らが他にもバックアップをどこかに隠していないとは限らない。それを親しい誰かにこっそり言い残していないとも限らない。誰かが彼らの衣鉢を継いで研究を引き継がないとは誰にも言い切れない。
 ヒノイとの開戦当初、彼らの知識や技術、その研究データは国防上必要だった。だから彼らには必要なリソースがほとんど無制限に与えられた。そして戦争は終わった。彼らの実績と成果は幾つかの瑕疵こそあれど否定できるものではなく、公的には弾劾するわけにはいかなかった。だから、彼らの死は表向き事故死として処理される。他国との戦争を機に再び事業を拡大しようとする軍事産業にとっては、一種の見せしめと警告にもなるだろう。

「危険要素の排除。フェンテスと言う国家にとって内乱の因子となりかねない者は、その芽が出る前に摘み取られる」

 部屋を出る前にアンドロイドは一瞬だけ瞑目し、死者達へ黙祷を捧げた。彼らは彼らなりにフェンテスに貢献し、フェンテスの未来を信じ、フェンテスの行く末を憂いていた。それは事実だ。

 AIは人類の積み重ねてきた膨大な叡知を学習し、それらを効率的に運用することができる。ある意味では、AIを創り出した人間という種族を既に超えているとさえ言える。
 しかし、AIには不可能なことがある。それは無から有を生み出すことだ。

 AIは人間が創り出してきた膨大な数の楽譜から新たな旋律は生み出せる。しかし、歴史上の楽聖と呼ばれる幾人かの偉大な音楽家達が成し遂げたように、これまで存在してこなかった全く新たな音楽様式を創出することは出来ない。
 AIは、これまでの常識を無意味とするほどの変革を成すことは出来ない。新しい常識、かつては不可能とされてきた未知の領域を切り開く先駆者とはなりえない。
 AIに可能なのは効率的な現状維持がせいぜいであって、それではいつか必ず退嬰と衰退の時は避けられない。

 だから、いつの日にかフェンテスもまた成長を止めて衰退する時が来る。それは十年後かもしれないし、百年後かもしれない。国家の衰亡は歴史上無数に繰り返されてきた。だからフェンテスだけが例外ではありえない。
 未来へと続く新たな可能性を生み出せるのは、不完全であるがゆえに現状に満足できずに未来を掴み取る人間の意志だけだ。おそらく、その時はフェンテスという滅びかけた国家になど目もくれず、次の全く新しい国家が生まれることになるのだろうけれど。

「まだ見ぬ未来のために」

 この日、悪の神との最終決戦に勝利に湧くフェンテス各地で小規模な事故が幾つか発生した。勝利に酔った者が浮かれ気分で引き起こした事故は、それによって少数の犠牲者を出したものの、最終決戦によって発生した数多くの被害と負傷者の報道に紛れて衆目を集めることもなく、ひっそりと処理された。


設定引用元
ELP様『戦闘兵器開発プロジェクト開始』
https://www.chichi-pui.com/posts/f77ef9ff-1988-489d-bdc2-cd3af52b145a/
くろらっと様『安心したまえ、痛いのは最初だけだ。施術すれば痛みを感じなくなる。』
https://www.chichi-pui.com/posts/a4f6f82e-5078-478b-9b2a-7b77a9a5ce9b/
renu様作『捨て駒』
https://www.chichi-pui.com/posts/83e55620-ad82-4992-800f-77a2b54335f2/
美少女LABO様作『フェンテスの忍者:影の戦士たち』
https://www.chichi-pui.com/posts/4847aee9-8b31-4c83-b618-a0807b63cc3a/

呪文

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イラストの呪文(プロンプト)

jacket partially removed, heart in eye, burnt clothes, holding fishing rod, kanji, doujin cover, pentagram, tape gag, adjusting headwear, red socks, friends, cloud print, coke-bottle glasses, oral invitation, competition school swimsuit, barbell piercing, gradient legwear, prisoner, blood on breasts, wind chime, carrying over shoulder, tape measure, flaming weapon

イラストの呪文(ネガティブプロンプト)

入力なし
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