レイヤーを調教 Ram編
ありがとうございます
レムは主人(ちんころ)の前に静かに膝をつき、背筋を伸ばして頭を下げた。
その所作には迷いがなく、日々積み重ねてきた訓練の跡がはっきりと滲んでいる。
「ご主人様」
呼びかける声は柔らかいが、芯があった。
かつて感情に振り回されがちだった自分は、ここにはもういない。
指示を聞き、考え、最善を選ぶ――それを教えられてきた。
少し間を置いて、レムは言葉を続ける。
「お願いがございます」
主人が視線だけで促すと、レムは一度息を整えた。
「姉のラムにも……同じように、導きをいただけないでしょうか」
脳裏に浮かぶのは、強く誇り高く、誰にも頼ろうとしない姉の姿。
才能に恵まれながらも、すべてを一人で背負おうとするその背中は、どこか危うく見えた。
「姉は強いです。でも……強さだけでは、守れないものもあります」
レムは自分の胸に手を当てる。
「私は、ご主人様のもとで躾けを学びました。
命令に従うことではなく、信頼して身を委ねるということを」
沈黙ののち、主人は静かに口を開いた。
「ラムがそれを望むなら、だ」
その言葉に、レムはほっと息をついた。
躾とは肉体を縛られることではない。
誰かが寄りかかれる場所を用意することなのだと、彼女は知っている。
レムは再び深く頭を下げた。
「ありがとうございます。
姉にも――“躾られる喜び”を教えてあげたいのです」
「……レム」
呼ばれて、レムは一歩だけ前に出た。
姿勢は自然で、作られたものではない。
「はい。ご主人様」
「さっきの言葉。ラムに“躾られる喜び”を教えたいと言ったな」
「はい」
即答だった。
「それは、どういう意味だ?」
レムは少し考え、言葉を選ぶ。
以前の彼女なら、沈黙でやり過ごしていた問いだ。
「躾けられる、という言葉は……」
「縛られることだと思われがちです」
「だが?」
「本当は、“考えなくていい場所”を与えられることだと、レムは思います」
主人は口を挟まない。
レムは続けた。
「何をすべきか」
「どこまででいいのか」
「それを誰かが示してくれる」
レムは胸に手を当てる。
「それは、とても……楽なのです」
「楽?」
「はい。逃げではありません」
視線を上げ、まっすぐに見る。
「責任を放棄するのではなく、責任を“預ける”という感覚です」
主人は、低く息を吐いた。
「ラムは、それを嫌うだろう」
「はい。きっと」
レムは微笑んだ。
それは覚悟のある微笑みだった。
「姉様は、自分で決め続けてきました」
「間違えても、迷っても、誰にも預けなかった」
「それが誇りだ」
「だからこそ……疲れているのです」
沈黙。
「レムは、ご主人様に躾けられて」
「“正しくあろう”としなくてよくなりました」
「それは――」
「正しく“使われる”ことを許された、という意味です」
その言葉には、甘さも陶酔もなかった。
ただ、落ち着いた納得があった。
「姉様にも、それを知ってほしい」
「従うことの気持ちよさ、ではないな」
「はい」
レムは首を横に振る。
「守られる範囲を知ること」
「役割を与えられること」
「評価される基準が、はっきりすること」
少し間を置いて、こう付け足す。
「……独りで立たなくていいと、知ることです」
主人はしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「それを教えるのは、私ではない」
レムは驚かなかった。
「はい。レムも、そう思います」
「なら、誰だ?」
レムは一歩下がり、深く頭を下げる。
「レムです」
「躾けられた者として」
「その安心を知っている者として」
顔を上げ、はっきりと告げた。
「姉様に伝えたいのです」
「躾は、屈することではないと」
「……居場所をもらうことだと」
呪文
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