久しぶりに小説☆ 先だし( ・ิω・ิ)
* * * *
んもう、お母さんったら……ラーヴィの前であんなこと言うて、あんなことしよって……大胆やけん……獣人ならいざ知らず――
獣人の習性とはいえ、人間族の男の子にあんな濃厚なマーキングなんて……された側はたまらんやん!
でも、ラーヴィは平然としよったなぁ……ほんとに強かとよ……うん。
正直に言うて……す、す……いやぁぁぁ! だめやろがい!
月美に椿咲様、葵様にミントさんの4人が彼に好意を抱いとるけん、横恋慕は……
うん。ダメやろ! しかも国外の傭兵とか、王族としても問題ありすぎやん?
「どうしたの? 浮かんだ顔しよって。ふふ♪ 彼が気になると?」
「んもぉ~! お母さん。あんまり言わんでよぉ……その通りだけど」
お母さんには嘘はつけんとよ。とほほ……
ラーヴィと別れる前に、『話がある』って言われて、ウチはお母さんとプライベートテラスに来とる。ここは、王族であることから解放される、お母さんとウチだけの特別な場所たい。
「いいわね……私も恋したんは瑠奈くらいの年頃やったかしら? 250年以上前よ、懐かしかね。でも、お父様ったら、常に戦場の前線に送り出すけん、恋愛の『れ!』もできんかったとよ」
ぷんぷんと怒った顔のお母さん。これもいつもの定番。
そして続けて言うとよ――
はるか遠くの星空を見上げながら、懐かしそうに言葉を継いだ。
「でも、123年前に彼と恋をして、国を支え合ううちにあなたが生まれたのよ。あの時は幸せの絶頂やったわぁ」
「また目をキラキラさせて……お母さんののろけ話、もう何回目よ……」
ウチは苦笑いしながら母の話を聞いとる。
大好きなお母さんとの、このやり取りは、かけがえなかぁ♪
今この時だけ、ウチは王女やなか。
たんなる、獣神族と人間族のハーフの女……それだけたい。
王族としての務めが嫌いなわけじゃなかけど、それでもこの解放感に、救われる気持ちがある。
* * * *
お母さんは、お爺ちゃんから熊本国の王位を継いでから、すでに175年になる。
熊本の平和と民の幸せのために身を削り、今も圧倒的な力と統率力で国を導く、ウチの憧れの人たい。
ウチも100歳までにはもっと立派な王女にならなきゃと思っとる。
獣神族と人間族の間に生まれたウチが、両者をつなぐ架け橋にならんといかん。
お父さんは、人間族というだけで簡単には認めてもらえんかった。
お爺ちゃんは理解を示してくれたけど、臣下の多くは最後まで納得せんかった。
それでもお父さんは、きちんとケジメをつけた。
誇り高くて、優しくて、立派な人やった。
だからこそ、ウチがしっかりせんといかん。
お父さんの名誉のためにも、ウチ自身のためにも。
* * * *
星空がきれいに光るテラスで、果実酒を飲みながらお母さんと過ごすこのひとときが、なんとも幸せたい。
ふと、お母さんが真剣な顔になる。どうしたと?
「楽しい一時やけど、瑠奈にしか聞けんことがあるの。いいかしら?」
「へ? どげんしたと?」
思わず姿勢を正した。今までにないほど真剣な眼差し……いったい何ね?
「最近、私……変な行動をしてないかしら? 何か、気づいたことはある?」
「え? 変な行動? ん~、急にラーヴィに抱き着いたくらいしか思いつかんけど?」
親しい者にはマーキングする癖があるけど、そういや出会って間もない彼にするとは、ウチもびっくりしたとよ。
それを言うと、お母さんは「そう……」と瞳を伏せる……
え? どういうことね?
「あのね、実は。気づいたら、その……ラーヴィさんを抱きしめとったの……だけど」
その言葉を聞いて、ウチは思わず「は……?」と、どう反応すればよか分からんやった。
「そ、その時、何か変なこと言いよらんやった? 私」
「ええと、『ついマーキングしたくなるのよ』とは言うたかな。あと、『無防備すぎる』とか……うん」
あん時は確かに……いつものお母さんと、ちょっと違った気がする。
今思うと、獣人の本能というより、猟奇的よりやったような……
まるでお母さんが変貌したようで、ちょっと……怖かった。
「そのへんは覚えとるわ……抱きしめた彼が、可愛うて♡」
「そこは覚えとるんやね! んもう……でも、驚いたばい。そんなに親しくないのに、本能で抱きしめちゃったんやろ? お母さんのいつもの癖やない?」
「……そう。ありがとう。ほかは……大丈夫、だと思うけど……」
安心させるために砕いて言うたけど……
依然として不安そうなお母さん。こんなお母さんを見たのは――あ。
お父さんが亡くなったときだ……
あの後、お母さんは自暴自棄になって、すごく荒れたとよ。
部屋を荒らしたり、誰にも会おうとせんかったとよ。
お父さんの死を受け入れられなくて……あの時も――
『私の寿命をアナタに捧げるからぁ! 生き返ってよぉおお!』
半狂乱になってた……蘇生させるためなら、『何でも手にかけそうな勢い』やった……
あの時のお母さんは、壊れてしまっとった……
ウチも大好きなお父さんが死んじゃって、悲しくて塞ぎこんでたけれど、お母さんの悲しみはずっと重かったと。
そいで心を病んで、《夢遊病》になり、行動の記憶が途切れたり曖昧になった時期があった。
そんとき、大臣の刹那が四六時中お母さんに連れ添って、献身してくれたおかげで立ち直れたんよ。
自国の事件に、酷く胸を痛めても、公務の場では毅然としなければいけん。
今年に入って、一切休まず動いて来たんは知っとる……
この、プライベートテラスも、今年に入って初めて使ったんやき。
あんまり不安を煽ったらいかん。安心させんといかん。
ウチは出来るだけ笑顔で、お母さんに話しかけた。
「大丈夫たい。お母さんが変なことしよるって噂、聞かんばい。刹那もしっかりお母さんの言動をチェックしよるけん」
「それがね……刹那が、今朝からどこにもおらんのよ……突然いなくなったと」
その言葉に、ウチは信じられんくて、叫びそうになったのを両手で口を押さえた。
そんな……彼が? あり得ん……どういうことや!?
ウチは、彼が絶対に裏切らん人やって信じとった……それなのに……
「部屋に行ってもね、荒らされた後は無くて、連絡も、何も残ってなくて……忽然といなくなっちゃった……」
お母さんにいちばん忠義を尽くす彼が、突然おらんごつなるなんて!
生まれて初めてのことや……どうしたと、刹那!
ど、どうしよ! どうしよう! お母さん!
あまりにも多くのことが一度に押し寄せて、ウチだけじゃどうしたらいいのかわからん……
ウチがもっとしっかりしとったら……こんなことにならんかったかもしれん……
刹那はお母さんだけじゃなく、熊本国の要でもあるんやき、明日からの政の運営は?
ほかにも、彼が担っていた仕事はどうなると?
……けど、ウチが悩んどると、不意にお母さんは言うた。
「今は福岡の皆様との連携を何より大切にしなければなりません。月美様方のご支援を、無下にするわけにはいきませんから……瑠奈、今お話ししたことは、ひとまず保留にしていただけるかしら。ごめんなさいね」
お母さん、ここはプライベートやのに……公務の顔で話しよる?
自分を保つために、そうしとかんといかんほど、お母さんは疲れとるとね?
「瑠奈は、ラーヴィさんと共に被災地の現場を巡ってください。忘れないで――被災地だけではありません。熊本の各地に、手を差し伸べるべき場所がまだ残されています」
ねぇ、お母さん……それだけ、辛かと? ねぇ?
ウチはどうすれば? 言われた通り、呪いの被害を抑えることが、今はいちばん大事なん?
分かった。まずは、それを解決せんと。
その場では、これ以上何も進まんやった……
だけど……ただ、ただ、ウチは無力さを思い知らされた気がした。
そして……これを伝えたい人が、この国におらんけん、アイツしか思いつかんことに、情けなさを覚えた。
「ラーヴィ……」
ぽつりと、彼の名を呼んでしもうた。
その音は、夜空の星が受け止めてくれたんか……微かに輝いたのが見えた。
呪文
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