ちちぷい先行!小説公開「謹慎部屋の二人」
水木金で連日公開します〜カクヨムで☆
両手両足をきつく拘束されたまま、ミントは魔王城の地下にある謹慎室に閉じ込められていた。
先日、執事に暴力を振るった事件――彼が葵の裸を見たことで激昂し、我を忘れて執拗に殴り続けてしまった結果、捕らえられて今に至るのだった。
***
……深夜……連れてこられた謹慎室のドアが、突然開いた。
月美? どうしてここに? 死人みたいな暗い顔をしてる……何かあったの?
それに、どうして私のそばに来て、床に座ってるの……?
そう思っても……今の私には、問いかける気力さえ残っていなかった。
だって……私は、愛するラーヴィを殺そうとしたんだ……
なぜ、あんなことをしたのか――もう、思い出したくもない……
私以外の女性の裸を見たことが……どうしても許せなくてキレちゃうなんて……
もし、《彼が死んでしまうようなことがあったら》…
私も死ななきゃ……でも、両手両足は魔法で拘束されてるし、顎も……
舌を噛み切ることさえできない……
誰か、私を殺して! 彼のいない世界なんて、もう生きる意味がない……
「……安心してね……アイツ、生きてるよ。葵と一緒にいる……」
えっ……? い、生きてる? それを知っただけで、また涙があふれてくる……
一気に脳が覚醒していく――生きていたんだ……
嗚呼、ラーヴィ……ごめんね、ごめんなさい……
よかった……だって、気づいたときには、彼……見る影もないほどボロボロだったから……
死んだと思ってた……殺してしまったって、ずっと……
あ、謝らなきゃ! 今すぐにでも! でも……どうすればいいの? 拘束魔法は、自分では解けないし……
うつむいたまま、月美が人差し指を上に掲げて、何かをつぶやく。すると、顎にかけられていた拘束魔法がふっと解除された。
……彼が生きていると知って、私が自死しないと判断したの?
身体はまだ拘束されたままで動かせないけれど……違和感はあっても、これでしゃべることができる……よし、ええと……
「ぁぁえ……ラーヴィ、生きてるの!? あの状態から!?」
「……ほんと、ミントはアイツ一筋やねぇ……殺しかけたくせに」
「殺すつもりなんて、なかった……でも……」
「ブチギレて、リンチしといて……よく言うわ」
「……その点は……みんなに迷惑かけたわね……」
「殺人未遂。本来なら逮捕案件よ? アイツは起訴しないだろうけど……懲役刑レベルだからね?」
月美は、姿勢を変えることなく淡々とそう言った。
一体どんな感情で、その言葉を口にしているのか……。
自分がどんな処罰を受けようと構わない。
彼が生きている――それだけが、何より大事なことなのだから。
だから…… 一刻も早くここから出て、彼に謝りたい!
……少しだけ、心に余裕ができてきたからか、ふと気づく。
月美がこんな状態でいる理由……いったい何があったの?
「……それを言うために、わざわざここに来たの? でも、どうしてそんなに落ち込んでるの?」
少し間を置いて……嗚咽交じりに、月美が答えてくれた……
「……葵に、嫌われた……」
……ものすごい絶望感を感じる……
俯いていて表情は見えないけれど……嗚呼……さっきまでの私のように、深い闇に沈んでいるのが分かる。
涙でできたのだろうか。衣服のあちこちに、濃いシミがついている。
「……そう……月美にとっては、椿咲様や葵は……私にとってのラーヴィと同じなのよね?」
もし、私がラーヴィに嫌われたと思ったら……分かる、すごく分かる。絶望するに決まってる……
……それ以上、声をかけるのはやめておこう。
今はきっと、そっとしておくのがいい。
ラーヴィが生きていると知って、ほっとはしたけれど……
正直、拘束される時に負ったダメージも、正直深手だから……ラーヴィに会える時まで自己修復しておかなきゃ。
ホタルにも、メイド隊の皆は無事だったかしら……私、暴れたから……怪我人が出ていないか心配だわ。
……本当に、たくさん迷惑をかけてしまったわ……
どうか、償わせてほしい。どんなことでも受け止める……
ラーヴィが生きているのなら、何だって――受け止められるわ……
****
安心したからか……いつの間にか眠ってしまっていたみたい。
月美は……気づけば、私のすぐ隣で……すぅすぅと寝息を立てていた。
泣きはらした瞼は腫れていて……本当に、葵のことを悲しんでいたんだね。
……それに、拘束魔法も解かれてる。
月美? 勝手にそんなことして……大丈夫なの?
時計を見ると……朝の8時。
今日は……たしか3月17日、日曜日ね……
私はそっと身を起こし、月美に毛布をかけてやる。
……泣きはらした後でも、本当に綺麗な顔……うらやましいなぁ……
ここは謹慎部屋だけれど、シャワーやトイレ、シンクも備え付けられていて、普通の個室とほとんど変わらない快適さがある。
……本当は今すぐにでも彼のもとへ向かいたい。
でも、まだ謹慎中の身。さすがにこれ以上、わがままな行動は許されないよね……
もどかしいけれど、最低限の行動で我慢しなきゃ。
……でも、早く会いたい。今すぐにでも!
でも、あれだけの怪我だったんだもの……
今日も無事に生きていてくれるのかしら……
そのとき――
コン、コン……と、謹慎室のドアがノックされた。
音の気配からして、二人……?
誰かしら……? 一体、誰が……
ドアに向かう途中、感じる……この……マナの気配……うそ、まさか……!?
だって、あんな瀕死の状態だったのに?
一晩で治るはずがない……でも、この波長は……私の大好きな、ラーヴィのマナ……
気づけば、私はドアの前に立っていた。
その向こうから、声が聞こえてくる。
「ミント、起きてるか? 僕だ、ラーヴィだよ」
迷わずドアを開けると……なんてこと……
昨日、私が負わせてしまったはずの傷は跡形もなく、
むしろ――完全に回復してる!? そんな……うそ……!?
しかも、彼の隣には……
「おはよう、ミントちゃん……」
……腕を組んで、こちらを見つめる青い瞳が鋭く光る。
その怒りの視線を認識した瞬間、胸がズキンと痛んだ。
そのとき、背後からゴトリと音がして振り向くと、月美がすごい形相でこちらに向かってくる。
「あっ……」
私のすぐ横に月美が立つ。焦燥した表情に、額から大粒の汗が光っていた。
「葵……」
「お姉ちゃん、おはよう」
しかし、葵は月美に対しても怒りを込めた瞳を崩さない。そして、重く口を開いた。
「二人に話があると。今、お時間もろうても、よか?」
なぜか……逆らえない雰囲気……
葵……今回の件、本気で怒ってる?
こうして、騒動の渦中にいた四人が――この謹慎部屋に集まった。
これから、一体どんな話をするというの……?
葵……
呪文
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