あの夏の記憶
私は、知人の海の家で住み込みバイトをした。
そこで、彼女と知り合った。彼女は、その土地の名主の家の娘だった。
当時、貧乏大学生だった私に彼女の姿は眩しかった。
一ヶ月のバイトを終えてからも彼女との連絡は続いていたが、やがて音信不通となった。
昨年、当時の海の家の知人から彼女が亡くなったと連絡があった。
彼女は、地元の有力者と結婚したものの実家が事業に失敗したことで離婚、その後も実家には不幸が続いて最終的に彼女は孤独死したと言う。
彼女の墓前に手を合わせながら思う。あの時彼女はこの街を出たがっていた。私に手を差し出していた。
でも、学費にも困窮する貧乏学生の私では経済的に無理な願いだった。
好きだけでは、どうしようもない残酷な事実として現実の生活にはお金がいる。
恋愛のTVドラマは所詮、一番良いところで終わる虚構なのだ。
その後、私は何とか大学を4年で卒業し、地方公務員となった。知人に紹介された女性と結婚して、娘が2人いる。
長女は結婚して家を出たが、次女は実家でパートをしている。
まあ、一応働いて生活費を入れているから良しとしている。
私もあと5年で定年だ。出世は叶わず万年係長だったが、大学の同期の中ではまあまあの人生だったと思う。
同期の中では、過労死した者や行方不明者(書類上死亡扱い)が数名いる。
転職を繰り返すうちに、どんどん格下の企業になり、部長級なのに公務員の係長の私より俸給の少ない者もいる。
皮肉な事に一番の成功者は、あれほど嫌がっていた家業の寺の住職を継いだ親友だった。
敷地の半分をコインパーキングと業務スーパーに借地しており、駅前の立地条件の良さから借地収入は家業よりも多いと言う。
檀家周りでは10年落ちの軽自動車だが、自家用ではレクサスのSUVとセダンを持っている。
レクサス2台の新車価格は2000万円を超える。そして3年ごとに新車買替で、それも経費で落ちるんだそうな。
シンプルな腕時計は、ブレゲのクラシック9268で新品は約300万円するのを複数所有と言う。
今、思う。あの時、彼女の手を取っていたら全く別の人生だったろうか・・・と。
まあ、そんなことはないと思う。映画「卒業」のダスティン・ホフマン(古い!)のように、好きな女を連れだす勇気は私にはなかった。
海の家の知人から遺品の中で私宛の手紙があったそうだが、そのまま封を開封しないまま焼却してもらった。
彼女はもう、この世にいない。故人の手紙は見ない方が良い・・・私と彼女との決別の意味もあった。
私は普通に結婚し、2人の娘は些細な反抗期こそあったものの、グレルこともなく大学まで無事に卒業し就職した。
臭い親父とも言われず、今でも「お父さん」と呼んでくれる。それで良いではないか?
大学を卒業してからの私は、超平凡な人生だった。でも私はこれで良かったと思っている。
あの夏の記憶は、私の記憶の奥の引き出しに静かに封印するつもりだ。
アクアの旅路 (You Tube)
https://www.youtube.com/watch?v=UTFF8oM1nQI&list=RDundE1G2OgYA&index=2
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