『あの姉』
テレビや何かを観て急に思い立ってはしばらく屋根に上がらなくなって、車庫にこもって作るようだ。進化とは言ってもロボは基本的にずっと緑色だし、姉は深手を負った設定の加工がえらく好きみたいなので、きっと進化していることにも気づいてもらえていない。姉が新作を着てまた屋根に上がったときには、道行く小学生男子たちが「また出た!オンボロロボットぉ」と笑いながら走って逃げる声が、窓の外で聞こえたりもする。
まだ祖母が生きていて着付け教室をしていた頃、車庫の近くで段ボール工作をする姉は教室の生徒さんたちからも神童扱いだった。どこで噂を聞きつけたのか、模型の街でもあるこの街で、メーカーの人やプロのモデラ―さんがわざわざ姉を訪ねて会いにきたこともあった。感心し切りのおじさんたちからロボのプラモデルやハンダごてを贈られた姉の造形技術は向上し続け、中学を卒業してからは沼津の高専に進学するのだった。
あのときは両親も喜んでいた。普段はごく平凡で質素な生活を好むはずの父が「こりゃぁ香奈は将来、田宮か青島の、そういうとこの重役さんにでもなるんラ?」などと言い出し、合格発表の晩に珍しく家族で外食に行ったりもした。うちでは普段、松坂屋の地下の総菜売り場にいる母が社割で買って帰る味噌味のおかずばかりなのだ。だからあの晩、姉のおこぼれに授かってげんこつハンバーグを食べすぎた私も、その胃もたれすらまでもがさわやかでいい想い出になったはずなのだが……。
あの姉――今日も屋根に上がって街を見下ろしている私の姉のこと。あの姉の、姉の歯車、ロボの歯車が狂ってしまったのは一体いつのことなのだろう。
(つづく)
呪文
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