銀世界の主様
「……ふん。また来たのか、物好きな人間め」
透き通るような白髪を揺らし、少女——この雪山の主が、宙に浮かべた雪の結晶を弄びながら振り返る。
「主様、また夜更かしですか?」
「夜更かしではない、見回りだ! ほら、見ていろ。こうして雪に命を吹き込んでおかないと、明日の朝にはただの氷の塊になってしまうだろう?」
彼女が指先をひらりと動かすと、手のひらの上で雪の結晶が生き物のように輪を描いて踊った。その瞳は、凍った湖の底のように深く、青い。
「綺麗ですね」
「……当たり前だ。私が作っているのだからな」
彼女は少しだけ頬を赤らめ、ぷいと顔をそむけた。短い尻尾が、感情を隠しきれずにパタパタと左右に振れている。
「主様、顔が赤いですよ。寒いんじゃないですか?」
「なっ……! 私は雪の主だぞ? 寒いわけなかろう! これは……そう、この着物の帯が少しきつすぎるだけだ!」
「そうですか。なら、この温かい甘酒は私一人で飲むことにします」
そう言って水筒を取り出すと、彼女の猫耳がピクンと跳ねた。
「待て。主たるもの、領民の持ち物を検分する義務がある。……毒が入っていないか、私が毒見してやろう」
「はいはい。お近づきの印に、どうぞ」
差し出したカップを両手で包み込み、彼女は「ふー、ふー」と丁寧に息を吹きかける。一口飲んで、ふにゃりと表情を緩めた。
「……悪くない。特別に、今夜は隣に座ることを許してやる」
雪原に二人の影が並ぶ。主様の長い髪が風に舞い、銀世界に幻想的な模様を描き出していた。
呪文
入力なし