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人に仕えず、家に仕える武士4(最終回)

使用したAI ImageFX
シーン1
「ここは一体……」
目を覚ますと知らない場所で寝ていた。
体を起こして周りを見渡してもやはり見覚えがまったくない。
「確か、拙者は……」
徐々に記憶が戻ってくる。
夜襲を受けたキツツキ軍を退却させるために殿(しんがり)を務めた。
そして深手を負い、死んだ……はずだった。
それが何故このようなところで寝ていたのだろうか。

「失礼いたします……!? 義成様、お気づきになられましたか!」
入ってきた男の顔には見覚えがあった、戦場から最も近かった村の村長だ。
「気が付いたら知らない家で寝かされていて、さぞや混乱されたでしょう、事情をご説明いたします」

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シーン2
目覚めた翌日、村長に礼を述べた後、キツツキ家の本拠地へと旅立った。
季節は冬から春へと移っている。
自分はなんと二月もの間、寝ていたらしい。
死の淵にいたのだということを実感させられた。

道すがら、昨日村長に聞かされた話を思い出す。
通りすがりの旅人が、瀕死の自分を見つけ助けてくれたらしい。
金目の物が無いかと所持品を漁ろうとしたら、まだ息があるのに気づいてくれたとのこと。
そしてさらに運が良いことに、その旅人は戦目当てでやってきた薬の行商人だったのだ。
「義成様が助かったのは、まこと奇跡というしかございません。神のご加護があったのでしょう」
キツツキ家の守り神で、破壊と混沌に綴られた神「狂った猫」の加護だろうか。
……複雑な心境である。

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シーン3
「義成様、お会いしとうございました!」
夜分に我が家へとたどり着いた自分を迎えてくれたのは、愛する妻であった。
事情は知っているらしい様子から、どうやら村長が生きていることを知らせてくれていたようだ。

「お前も、成琴(なるこ)も息災にしていたか?」
「はい、義成様達が命がけで戦ってくれたおかげで、この地に戦火が及ぶことも無く娘共々健やかにいられました」
「そうか。それは良かった」
愛する妻の温もりで、自分があるべき場所に帰ってきたということを深く感じるのであった。

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シーン4
翌日キツツキ城に登城し、主君キツツキノグロウに目通りを願い許された。
「極威義成、只今戻りました。この度の大勝利、まことおめでとうござります」
「おう、ありがとな。お前もご苦労じゃったな、義成よ」
キツツキハルノグ。
仕える主君であり、マタタビヤ地方キツツキの地を収める領主である。
欲望に忠実な方であり、民には圧政を敷いている。
自分の考える理想の領主の姿からは程遠く、正直苦手だ。
「義成よ、身を挺して味方を救った事、ご苦労じゃった!」

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シーン5
「じゃがのう、一山100円の雑魚どもなど見殺しにして逃げるべきじゃったな」

「雑魚どもを助けた結果が、深手を負って最後の大戦(おおいくさ)にエントリー失敗、ろぐいんぼーなすを逃すとは……まことうつけじゃのう」
まったく言い返すことができない。
将と兵、どちらが大事であるかなど問うまでも無い。
だが、分かっていても自分にはそのようなことはできなかったのである
「お前がいれば最後の戦はもっと楽できたんじゃぞ? 分かっておるのか? ごめんで済めば警察はいらないんじゃぞ?」
「返す言葉もございませぬ」
「信賞必罰は部門の習いであるからのぅ。お前の愚かな行為に対し、沙汰を言い渡そう」

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シーン6
「極威義成。大局を誤り、味方に余計な犠牲を出したこと、まこと許しがたい」
「よって、斬首とする」
ノグロウ様の性格から、こうなるかもしれないことは予期していた。
「今までの功績に免じ、ワシ自ら首をはねてやろう! 何か言いたいことはあるか?」
「……ございませぬ。ご存分に」
泣いて再開を喜んでくれた妻、そして幼い娘が悲しむであろうことが心残りだった。
「では、覚悟せよ」
首筋に冷たい感触。刃が当てられている。
「さらばじゃ義成。次生まれてくるときは、必ず強くてニューゲームを選択して始めるんじゃぞ」
冷たい感触が首から離れると同時に、目を閉じた。

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シーン7
……何も起こらない。
不審に思い目を開けてみるとそこには……「ドッキリ大成功」という看板を横に立て、大爆笑しているノグロウ様の姿があった。
「やーい、引っかかりおったな! 今の貴様の間抜け顔、Xに投稿してやるからそのままにしておれよ」
「殿、これは一体……?」
まったく訳が分からない。
「まぁ有り体に申せば、貴様の首など要らぬということじゃ」
「……信賞必罰は部門の習いではなかったのですか」
「なんで顔も知らないヤツが作った決まり事なんか守らんといかんのじゃ!! ワシの道はワシが決める、ただそれだけじゃ。欲望王にワシはなる!」
……どうやら処刑されることはなさそうなので、正直安堵した。
「貴様の妻に感謝するのじゃぞ、義成よ」
「……妻が何かしたのですか!?」
何故ここで妻の名が?

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シーン8
「ウム、実はのぅ……昨晩遅く、お前さんの妻が婆さんと一緒に訪ねてきてのぅ」
「!? 妻が!?」
そういえば妻はノグロウ様の妻、シュンギク様と仲が良かったということを思い出す。
その縁を使って、命乞いをしてくれたのだろうか。
「お前さんの命乞いをするかと思ったら、いきなりワシの首に短刀を突き付けてこう言ったのじゃ」
「『義成様を殺す気でしたら、今ここでお命を頂きます』、と」
「!?」
あの心優しき妻がそんなことを!?
「鬼気迫る表情と声音に、マジで小便ちびるかと思ったぞ。というか、少しちびったわwww」
「は、はぁ……」
「ワシはお前のことを気に入っておるから、別に罰を与える気はなかったのじゃが……なんか悔しいので、こうして一計案じたというわけじゃ!」
まったく意味が無い! というか、逆効果だったぞ、妻よ……。
「お互い、おっかない妻を持ったものじゃな! 恐妻家度同士、これからも仲良くしようぞ義成よ」
「はっ……」
……もぅ何も言うことができなかった。。。

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シーン9
「よくきたのぅ義成。傷は大丈夫か? パイ揉むか?」
「……お心遣い感謝いたします。幸い傷は癒えましたので、そのようなお気遣いは無用です」
「相変わらずカタいやつじゃのぅ~。ちゃんと人生楽しんでおるか?」

目通りが終わった後、ノグロウ様に言われた。
「ハルノグもお前に会いたがっていたので、尋ねるがよい」

キツツキハルノグ様。
ノグロウ様の孫娘である。
ノグロウ様に溺愛されていて、彼女の意見にノグロウ様はなんでも従う。
そのため、真のキツツキ家当主であると揶揄されている。
並ぶものの無い色情狂であり、かつ祖父以上に欲望に真っ直ぐなお方でもある。
ただ許嫁である執事侍ジナライ殿以外と契ることは無いので、身持ちは固いのかもしれない。

「さて、お前を呼んだ理由はこれじゃ!」

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シーン10
「新作のキツツキカレーじゃ! 先の戦で奮戦したお主に真っ先に食べて貰おうと思ってのう」
キツツキ家の名物料理キツツキカレー。
主君から家臣へと振舞われる伝統料理で、自分も何度か馳走になったことはあるのだが、
「……恐れながらハルノグ様、このカレーは何を素材に使っておりますでしょうか」
見た目が少々……いや怪しすぎる。
ただの食べ物のはずなのに、歴戦の猛者と対峙した時のような緊張が体に走っている!
「企業秘密じゃ! 知りたくば食すが良いぞ!」
主君筋より勧められた以上、自分には断ることはできない。
意を決し、匙(さじ)を掴み、すくって口に放り込む。

……。
!?
〇□★△◇
くぁwせdrftgyふじこlp!?!?

ああ……アムロ。刻(とき)が見える。

「……うーむ、ちょっと味付け濃かったかのぅ」
薄れゆく意識の中、そんな声が聞こえたような気がする。

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シーン11
「はて、ここは……」
「義成様、いかがなされましたか?」
隣をみると愛する妻の姿があった。

新作キツツキカレーを食べてからというもの、度々意識を失うようになっており、今も意識を失っていたようだ。
ハルノグ様によると、
「一時的な症状だから安心せよ! 科学の進歩に犠牲はつきものなのじゃ、ギャハハ」
一体何を食べさせられたのだろうか……。

「義成様、ほら桜が綺麗ですよ」
空の青に桜が映える。
そうか、ここはマタタビヤ地方で最北にある港町だ。
北にあるため寒さが厳しく、そのためまだ桜が咲いているのだろう。
徐々に意識がはっきりしていく。
平和が戻ったことで戦働きしかできぬ自分の役目も失われたので、家族を連れて静養を兼ねた旅に出たのであった。
目的地はニャンニャンダ島。
気候が温暖で、猫族が多数住んでいるという。
ニャンニャンダ島へ行くことを知ったハルノグ様からは、
「ニャンニャンダ島へ行くなら魚を釣ってこい! 山ほど釣ってチルド便で送るのじゃ! 着払いでも良いが、ワシは金払いたくないから送り先は爺にするのじゃぞ!」
と申し付けられたので、静養ではなくお役目になってしまったのだが。

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シーン12
「父上ー、早く行こー」
「これ、階段はゆっくり降りぬと危ういぞ」
港へと駆け出そうとする娘を優しく諫(いさ)める。
住んでいた城下町から出たことが無かったので、この旅が楽しみでしょうがないようだ。
だが、それは自分も同じである。
知らない地、知らない人々。それらを想像すると、胸が躍る。
ノグロウ様を見習い、たまには己が欲望に素直になってみようか。
ただ、そんなことを思った。

穏やかな時間の中、義成は愛しき家族を連れ港へと歩みだすのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

以上になります。
これにて、極威義成の物語は終いです。
人に仕えず、家に仕える武士シリーズを見て下さったすべての方々、ありがとうございました。
<(_)>

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追記 2025/2/16

極威義成より別れの挨拶が届きましたので、投稿します。
https://www.chichi-pui.com/posts/5e8da37c-9a9d-46db-b1c0-711d40cf7a02/

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